Liber Primus 第一之書

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御恵贈書籍:村井則夫『解体と遡行 ハイデガーと形而上学の歴史』(知泉書館)

村井則夫『解体と遡行 ハイデガー形而上学の歴史知泉書館

 

畏友による長年のハイデガー研究の精華。友人だからというのではなくて、これは本当にすごい、そして専門書・研究書としては異例に洒脱な書物。本書を開くと目に留まるエピグラフがなんとナボコフ『ヨーロッパ文学講義』から引いてあるもので、「まことに奇妙なことだが、ひとは書物を読むことはできない。ただ再読することができるだけだ。良き読者、一流の読者、積極的で創造的な読者は再読者なのである」とある。これは単に表面的に気取った引用なのではなく、本書全体を貫く根本的な態度を暗示するものなのだ。もしも書店で目にすることがあるならば、是非序文だけでも(さほど長くないので)目を通すことをお奨めしたい。

 

「……したがって本書は、ハイデガーの『存在史』の構想をそのまま肯定することも否定することもせず、それを一個の運動と理解し、いわば『存在史』の一歩手前で、『存在史』が身を起こそうとする寸前の気配を感じとること、その一瞬前の光景を網膜に焼き付けることを狙っている。そのため本書が試みるのは、ハイデガーの側から一方的に哲学史を照射することではなく、むしろ哲学史上のさまざまな思想家の発する光がハイデガーという思考の光学体(プリズム)を貫いたとき、そこにどれほどの分光と偏光が生じるか、その屈折率を測定することである。……」(同書序文から)